スイスでの銀行口座開設とKYC規制:IT・スタートアップ企業が直面する課題

スイスでの銀行口座開設とKYC規制:IT・スタートアップ企業が直面する課題

スイスは、IT・スタートアップ企業、とりわけブロックチェーンや暗号資産関連企業にとって魅力的なビジネス環境と強固な金融インフラを提供しています。しかしその一方で、スイスの銀行は世界で最も厳格な水準の本人確認(KYC)および資金洗浄防止(AML)規制を運用していることでも知られています。特に非居住者や新規設立法人がスイスで銀行口座を開設する際のハードルは極めて高く、現地の法律や独自の審査基準に対する深い理解がなければ、ビジネスのスタート地点に立つことすら困難です。日本の法令とは異なるスイス特有のボトムアップ型の規制構造や、暗号資産企業に向けた特別なデューデリジェンスの要件を正確に把握することは、スイス進出を成功させるための必須条件と言えます。

本記事では、スイスにおける最新の法制や銀行実務のリアルな現状、スイス連邦最高裁判所の注目すべき判例、そして厳しいコンプライアンス要件を乗り越えて口座開設を成功させるための実務的なサバイバル術について詳細に解説します。

スイスにおける資金洗浄防止法制の基本構造と日本の法律との違い

金融分野における資金洗浄防止法の適用範囲と規制の枠組み

スイスの資金洗浄防止に関する規制環境は、主に二つの強力な法的な柱によって構成されています。第一の柱はスイス刑法(SR 311.0)第305条の2(Art. 305bis StGB)に規定されている資金洗浄罪であり、これにより犯罪行為に由来する資金の出所を隠蔽する行為が厳しく罰せられます。第二の柱は資金洗浄およびテロ資金供与の防止に関する連邦法(GwG、SR 955.0、以下「資金洗浄防止法」)です。この法律は金融仲介業者に対して、顧客との取引における厳格な注意義務と疑わしい取引の報告義務を課しています。この法律に基づく具体的な運用規則は、スイス連邦金融市場監督機構(FINMA)が発行する資金洗浄防止条例(GwV-FINMA、SR 955.033.0)によって詳細に定められています。スイスの資金洗浄防止法は伝統的な銀行業務のみならず、革新的な金融テクノロジーを用いたサービスにも等しく適用されるように設計されており、法規制の網羅性が非常に高いことが特徴です。

参考:fedlex(スイス連邦政府法令データベース)|SR 955.0 資金洗浄防止法(GwG)

GwG第2条第2項では銀行・証券業者等が列挙されるほか、第3項では業として他者の資産を受領・保管し、または運用・移転を補助する者も広く金融仲介業者として定義されています。例えば、顧客の秘密鍵を保管し暗号資産の送受信を可能にするカストディアルウォレットのプロバイダーなどは、スイス法下において明確に金融仲介業者に分類され、資金洗浄防止法の要件を完全に満たすことが要求されます。このように分散型台帳技術や暗号資産を用いた新しいビジネスモデルについても、資金洗浄防止法上の金融仲介業者の定義が及ぶ点が、スイスの規制環境の特徴と言えます。

日本の犯罪収益移転防止法との比較と留意すべき相違点

日本における犯罪収益移転防止法との比較において留意すべき最も重要な違いは、スイスの規制体系が自己規制組織の役割を極めて重く見ている点です。日本では金融庁や各所管官庁が法令や施行規則を通じて金融機関の本人確認の手続きを直接的かつ細密に規定し、行政主導のトップダウン型で規制が運用されています。これに対しスイスでは、銀行や金融仲介業者が所属する業界団体や国に承認された自己規制組織(SRO)が独自の自主規制ルールを策定し、それがFINMAの認可を受けることで加盟銀行に対して法的拘束力をもって機能する(GwG第24条・第25条)というボトムアップ型の構造が採用されています。

このシステムにより、スイスでは市場の急速な変化や新しいテクノロジーの台頭に対して、法律そのものを改正することなく業界の自主規制ルールをアップデートすることで迅速に対応することが可能となっています。したがってスイスで銀行口座の開設を目指す企業は、連邦政府が定める法律の条文だけでなく、スイス銀行協会や各自己規制組織が発行する実務的なガイドラインや協定の内容を深く理解し、それに準拠する体制を構築しなければなりません。またスイスの法令では、金融活動作業部会などの国際的な基準を国内法に迅速に反映させるメカニズムが確立しており、外国の制裁リストや高リスク国との取引に関する監視要件が日本の一般的な金融機関の実務よりもはるかに厳格に適用される点に注意が必要です。

銀行口座開設において求められるスイス銀行の本人確認とKYC規制の実務

銀行口座開設において求められるスイス銀行の本人確認とKYC規制の実務

スイス銀行協会の注意義務協定が定める身元確認のプロセス

スイスにおける銀行口座開設時の本人確認とKYC規制の核心を成すのが、スイス銀行協会が制定した銀行注意義務協定(Vereinbarung über die Standesregeln zur Sorgfaltspflicht der Banken、VSB 20)です。この協定はFINMAによって正式に承認された自主規制規則であり、スイス国内で営業するすべての銀行に対して強力な法的拘束力を持っています。銀行はこの協定に基づき、ビジネス関係を構築する際に契約当事者の身元確認、実質的支配者の特定、および資金の出所の確認に関する極めて詳細な手順を踏む義務を負います。

参考:SBA(スイス銀行協会)|銀行注意義務協定(VSB 20 / CDB 20)

この協定には厳格なタイムフレームが設定されており、銀行は口座開設時に顧客から必要な情報や身分証明書類を完全に収集しなければなりません。もし本人確認のための書類に不備がある場合や、提出された文書の正当性が確認できない場合、銀行は遅くとも口座開設後30日以内に入出金を停止しなければなりません。必要書類が期限内に提出できない場合は、取引関係を解消する義務があります(VSB 20 第45条第4項)。また近年ではビデオ通話やオンラインによるデジタル本人確認の手順もFINMAの規則(FINMA Rundschreiben 2016/7)によって詳細に定められており、技術的な確認要件を満たすことが求められます。

実質的支配者の特定と各種申告書式の運用ルール

スイスの銀行口座を開設する過程で最も複雑かつ重要な手続きが、法人を背後でコントロールしている実質的支配者および支配権を有する者の特定です。スイスの銀行実務では企業の事業形態や性質に応じて異なるアプローチが要求されます。法人が実質的な事業活動を行っているか否かによって提出すべき申告書式が厳格に区別されており、企業は自社の構造に適合した正確な情報を申告しなければならず、虚偽の申告にはスイス刑法上の文書偽造罪(Art. 251 StGB)などの刑事罰が適用される可能性があるため、極めて慎重な対応が要求されます。

企業の性質と要件適用される申告書式確認される主な内容と適用基準
実質的受益者フォームA自社固有のオフィススペースや従業員を持たず、資産管理等を主目的とするペーパーカンパニーや信託構造などに適用されます。口座内の資産の最終的な実質的支配者を申告することが求められます。
事業会社フォームK実際の事業活動を行っている事業法人に適用されます。法人の資本または議決権の保有状況や、その他の手段による実質的な支配力に基づき、法人を支配している自然人を特定することが求められます。

事業会社に適用されるフォームKに基づく支配者の特定プロセスには、厳密なカスケード型のアプローチが用いられます。第一段階として、法人の資本または議決権の25パーセント以上を保有する自然人を特定します。これに該当する者がいない場合、第二段階として株主間協定などのその他の手段によって法人を実質的に支配している自然人を特定します。もし第一段階および第二段階のいずれにおいても支配者が特定できない場合は、第三段階として法人の最上級の経営機関の構成員を支配者として申告しなければなりません。

日本の実務においても実質的支配者の申告は求められますが、スイスの実務ではこれらの特定プロセスが自己規制組織の厳密な書式に落とし込まれており、少しでも企業の所有構造が複雑な場合やオフショア法人が連鎖している場合には、背後にいるすべての自然人の身元証明と資金の出所証明を提出するよう銀行のコンプライアンス部門から徹底的な追及を受けます。故意に虚偽の情報を申告した場合は刑事罰に処されるリスクが伴うため、極めて慎重な対応が要求されます。

ITおよび暗号資産関連企業に対するスイス銀行の特別な審査基準

ブロックチェーン企業向け法人口座開設ガイドラインの全体像

ブロックチェーンや分散型台帳技術などの先端技術を扱う企業に対するスイスの銀行のKYC規制は、通常のIT企業に対するものよりも格段に厳しい要件が課されます。スイス銀行協会は、暗号資産を扱う企業に対する銀行のデューデリジェンスを明確化するため、「ブロックチェーン企業のための法人口座開設に関するガイドライン」を発行しています。このガイドラインでは、対象となる企業がトークン発行(ICOなど)によって資金調達を行っているかどうか、そしてその資金調達が法定通貨で行われたか暗号資産で行われたかによって、銀行が履行すべき審査のレベルを明確に区分しています。

参考:SBA(スイス銀行協会)|DLT企業向け法人口座開設ガイドライン

例えば、独自のトークン発行を行わず、単にブロックチェーン技術をソフトウェア開発やサプライチェーン管理などに利用しているだけのIT企業であれば、通常の事業会社と同等のKYC審査が適用されます。しかし、暗号資産を通じて外部から資金調達を行った企業が、その調達資金をスイスの銀行口座に入金しようとする場合、資金洗浄の観点から極めて高度な審査が発動することになります。

資金調達の性質銀行による審査およびデューデリジェンスの要件
法定通貨による調達トークン発行の有無に関わらず、資金の出所や投資家の実質的支配者の特定など、通常の厳格な口座開設時と同等の資金洗浄防止規制とKYC義務が適用されます。
暗号資産による調達企業が資金調達時にスイスの基準に適合するKYCを実施したことの証明が必要です。さらに銀行自身も高度なブロックチェーン分析ツールを用いて、入金元のウォレットの取引履歴に関するチェーン分析を徹底的に実施します。

暗号資産による資金調達が行われた場合、銀行は専門的なツールを用いて、ダークネット市場との繋がり、資金の出所を匿名化するミキサーやタンブラーの使用履歴、詐欺やギャンブルサイトとの関連、または高リスク国からの送金履歴がないかを徹底的にスクリーニングします。このチェーン分析において少しでも疑わしい取引が検出された場合、銀行は口座開設を直ちに拒否します。

ステーブルコイン発行者に対するFINMAの最新ガイダンス

近年、IT企業や金融スタートアップの間で新たな決済手段として注目を集めているステーブルコインの発行ビジネスに関しても、スイスにおける規制の網は非常に細かく張り巡らされています。FINMAは2024年7月に、ステーブルコイン発行者およびデフォルト保証を提供する銀行のリスクに関する新たなガイダンスを発表しました。このガイダンスは、ステーブルコインに関するビジネスを展開する企業に対して甚大な影響を与える内容を含んでおり、スイスでの事業展開において決して無視できない重要な指針となっています。

参考:FINMA(スイス連邦金融市場監督機構)|ステーブルコインに関するガイダンス(Mitteilung 06/2024)

当該ガイダンスにおいてFINMAは、ステーブルコインの発行者は、発行するステーブルコインの形態にかかわらず、資金洗浄防止法(GwG)上の厳格な注意義務およびKYC手順を遵守しなければならないことを明確にしました。すなわちステーブルコインの発行者は、単にシステムを提供するだけでなく、トークンの保有者およびその実質的支配者の身元を正確に特定し検証する義務を負います。さらに預金者を保護するために、ステーブルコインの発行者が破綻した場合に備えてスイスの銀行が提供するデフォルト保証の適用要件が厳格化されました。新しい要件の下では、各顧客がデフォルト保証を発行するスイスの銀行に対して直接かつ独立した請求権を持っていなければならないと定められました。これにより、スイスでステーブルコインビジネスに関与する法人が銀行口座を開設し維持するためには、自社の顧客に対するKYC体制が伝統的な銀行の基準を完全に満たしていることを外部の独立監査等を通じて継続的に証明し続けなければなりません。

スイス連邦最高裁判所の判例に見る銀行の契約の自由と基本供給義務

スイス連邦最高裁判所の判例に見る銀行の契約の自由と基本供給義務

スイス債務法に基づく契約の自由とコンプライアンスリスクの衝突

スイスの民間銀行が口座開設希望者に対して極めて高いハードルを課し、少しでもコンプライアンス上の疑念や制裁リスクがある場合に容赦なく口座開設を拒否する背景には、スイス債務法に深く根付いた「契約の自由」の原則が存在します。スイス債務法(OR)第19条・第20条に基づき、当事者は強行法規や公序良俗に反しない限り、契約の内容や契約を結ぶ相手を自由に選択することができます。したがって一般的な商業銀行は、特定の事業モデルがもたらすリスクや外国の制裁対象となる懸念を理由として、法的な説明責任を負うことなく自由に顧客との取引を拒否することが認められています。

しかしながら、この契約の自由の原則が公共サービスを提供する特定の金融機関に対してどのように適用されるのかについて、近年スイス連邦最高裁判所において非常に重要な判決が下されました。この判例は、外国の経済制裁とスイスにおける銀行口座の基本供給義務の衝突という、国際的に活動する企業にとって極めて重要な法的論点を詳細に扱っています。

ポストファイナンスの基本供給義務に関する重要な司法判断

スイスにおいて郵便事業から派生した金融機関であるポストファイナンスは、郵便法(PG、SR 783.0)第32条および郵便条例(VPG、SR 783.01)第43条以下に基づき、スイス国内に住所、本店または営業所を有する自然人・法人に対して日常的な支払い取引のためのサービスを提供するという公的な基本供給義務を負っています。この義務の例外として口座開設の拒否や強制解約が認められるのは、郵便条例(VPG)第45条が定める要件(国内法や直接適用される国際規則との抵触、不釣り合いなコスト、または具体的かつ重大な評判リスク等)に厳格に限定されています。この解釈を巡って争われたのがスイス連邦最高裁判所2026年3月3日判決(4A_454/2025)です。

参考:BGer(スイス連邦最高裁判所)|判決4A_454/2025

本事件の事実関係として、スイスに長年居住しているロシア国籍の申立人に対する銀行口座の強制解約が発端となりました。同氏はスイス国内に長年居住し生活の基盤を有していましたが、スイスの経済制裁対象リストに掲載されている親族の資金的支援者であるとみなされ、米国の外国資産管理局の制裁対象リストおよび英国の金融制裁リストに掲載されていました。しかし重要な点として、同氏自身はスイス国家経済事務局(SECO)の制裁対象リストには掲載されていませんでした。ポストファイナンスは米英の制裁リスクを理由に申立人の口座を強制解約しましたが、同氏はスイス国内での生活費の支払いに必要なスイスフラン建ての口座の維持を求めて提訴し、ベルン州商事裁判所は同氏の主張を認める判決を下しました。

外国の経済制裁とスイス国内法制の適用に関する裁判所の解釈

ポストファイナンスの上告を受けたスイス連邦最高裁判所は、上告を退け、口座の維持を命じる判決を下しました。裁判所は郵便条例第45条に定められた基本供給義務の例外事由について、極めて厳格な解釈を示しました。第一に、口座開設拒否の根拠となりうる「法令との抵触」(郵便条例Art. 45 Abs. 1 lit. a)について、裁判所はスイス国内法またはUN制裁等の直接適用可能な規範と抵触しない限り、米国・英国の制裁リストへの掲載のみをもってスイス法上の直接的な法的抵触とは認められないと判断しました。FINMAが金融機関に対して外国法に起因する法的リスクを管理することを期待しているとしても、それはスイスの法制下において外国の制裁を直接執行する一般的な義務を意味するものではないと判断しました。

第二に、ポストファイナンスは高リスク顧客の口座開設には平均4時間、継続的な監視に5.43時間のコンプライアンス部門の労働時間を要し、これが郵便条例が規定する「不釣り合いなコスト」に該当すると強く主張しました。しかし裁判所はこの主張を退け、資金洗浄や制裁リスクの高い顧客に対する強化されたデューデリジェンスや監視措置は、金融機関が当然に負うべき通常の規制上の負担であると判示しました。高リスク顧客に対する追加の事務作業を理由に口座を拒否することは、スイス憲法が保障する基本供給の趣旨に反すると結論付けました。第三に、ポストファイナンスが主張したコルレス銀行関係への脅威やレピュテーションリスクについても、具体的な損害の証明がない抽象的なリスクに過ぎず、契約解除の正当な理由にはならないと判断しました。

この判例は日本の実務においても非常に示唆に富んでいます。日本の金融機関の実務では、外国の制裁対象者や関連企業との取引について、自主的なリスク回避の観点から保守的な対応が取られる傾向があります。しかしスイスにおいては、少なくとも基本供給義務を負う金融機関に関しては、スイス国内法としての明確な法的根拠がない限り、外国の制裁や単なるコンプライアンスコストの増大を理由にした銀行口座の強制解約は許されないという強固な司法のスタンスが示されたのです。ただし、この判決は公的義務を負うポストファイナンスに対するものであり、純粋な民間銀行は依然として広い契約の自由を有しているため、IT企業やスタートアップ企業が直面するスイス銀行口座開設のハードルそのものが直ちに下がったわけではない点に留意する必要があります。

スイスで銀行口座を開設するための実務的サバイバル術

現地規制に完全に準拠した事業計画書とコンプライアンス方針の策定

スイスの銀行口座開設という高い壁を乗り越えるためには、現地の銀行のコンプライアンス担当者が納得する精緻な書類の準備が不可欠です。銀行が求めるのは単なる会社の定款や登記簿謄本ではありません。自社のビジネスモデルがスイスの資金洗浄防止法およびFINMAの規制環境下において、どのように合法的かつ透明性を持って運用されるのかを論理的に説明する詳細な事業計画書が必要です。特にブロックチェーン技術や暗号資産を扱う企業の場合、トークンの経済的な機能や資金の流れを解説したホワイトペーパー、綿密な財務予測、そして顧客の身元確認やトランザクション監視の具体的な手順を定めたKYC方針の提出が必須となります。

これらの書類は、単に日本の親会社の規定を機械的に翻訳しただけでは全く通用しません。スイスの銀行協会の注意義務協定の基準や、自己規制組織が求める厳格な要件に完全に準拠した形で、スイスの現地法に合わせてローカライズされている必要があります。銀行はこれらの提出書類を通じて、対象企業がスイスの金融エコシステムにおける資金洗浄リスクを真に理解し、それを適切にコントロールする意思と能力を持っているかを厳格に審査しています。

実体要件の充足と適格な現地の経営ガバナンス体制の構築

スイスの銀行は実体を伴わないペーパーカンパニーを通じた資金洗浄リスクを極度に警戒しているため、スイス国内に登記上の住所を置くだけでは銀行口座の開設要件を満たすことはできません。銀行は企業に対して、現地のオフィススペースの存在、実際の従業員の雇用、そして何よりも事業内容を深く理解し実質的な経営判断を行う能力を持った現地の取締役会の存在を強く要求します。

日本企業がスイスで法人を設立し口座を開設する際、コスト削減の目的から事業モデルや最先端のトークンエコノミクスに関する専門知識を持たない単なる名義貸しの人物を現地の代表取締役として選任するケースが見られます。しかしスイスの銀行は、現地の取締役がコンプライアンス上の責任を適切に果たせるだけの能力と実質的な権限を有しているかを面談を通じて厳しく問うため、このような消極的な名義取締役が配置されている場合、銀行はKYC要件を満たしていないと判断し口座開設を明確に拒否します。さらに、暗号資産を扱う企業の場合は、デジタル資産の規制に精通した適格なコンプライアンス責任者を現地に任命し、企業と銀行の会計処理が法的に適切に統合されていることを独立した外部監査等によって定期的に証明する体制を構築することが、スイスでビジネスを存続させるための必須となります。

まとめ

スイスは革新的な技術を持つIT企業やスタートアップにとって理想的なインフラを提供する一方で、その背後には世界で最も厳格とも言える資金洗浄防止および本人確認規制が存在しています。スイスで銀行口座を開設するプロセスは、単なる事務的な手続きではなく、企業がスイスの高度な金融コンプライアンスの基準を完全に満たしているかを証明するための厳しい法的審査そのものです。銀行の注意義務に関する協定に基づく実質的支配者の特定要件や、ブロックチェーン企業に対する厳しいガイドライン、さらにはスイス連邦最高裁判所の最新の判例が示すようなコンプライアンス負担の現実を正確に理解し、十分な実体要件と経営ガバナンスを備えた現地体制を構築することが、スイスでの事業展開を成功させるための第一歩となります。

このような高度な専門性が求められる現地の法令対応において、モノリス法律事務所はスイスの法律事務所Araucariaと強力な提携関係を構築しており、日本企業のスイス進出を包括的かつ実務的にサポートする体制を整えています。スイス特有の複雑な金融規制やコンプライアンス要件を日本企業が独自に満たすことは容易ではありませんが、現地の法令、知的財産権の保護、およびデータ保護規制への深い専門知見を有する現地の専門家をガバナンス体制に組み込むことで、厳格な銀行の審査にも耐えうる強力な法的バックアップを提供することが可能です。スイスの高いコンプライアンス基準を乗り越え、現地での持続可能かつ安全なビジネスの成長を実現するために、両事務所の専門知識を結集したサポートが企業の成功を力強く牽引します。

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