暗号資産とフィンテック規制:FINMAのライセンス区分とWeb3進出
スイスはフィンテックおよびブロックチェーン分野において世界を牽引するイノベーションハブとして地位を築いています。欧州圏へのWeb3ビジネス進出を検討する企業にとって、スイスの柔軟かつ明確な規制フレームワークは魅力的な選択肢です。スイスにおける規制の基盤を担うのが、FINMA(金融市場監督局)です。FINMAは新しい技術に対して中立的なアプローチを採用しており、暗号資産やブロックチェーン技術を活用した事業に対しても、既存の法令を経済的な機能に基づいて適用しています。
本記事では、FINMAによるトークンの法的分類とそれぞれの規制要件について解説します。また、無認可での一定額の預金受け入れを可能にするサンドボックス制度や、イノベーションを促進するために要件を緩和したフィンテック・ライセンスの活用法についても取り上げます。さらに、日本の法律との重要な違いや実際の法執行措置の判例を交えることで、スイスでフィンテックビジネスを展開するうえで必要な法令・手続きの情報を提供します。
スイスにおけるフィンテック規制とFINMAの役割
スイスが世界のフィンテック企業やブロックチェーンプロジェクトから進出先として選ばれる最大の理由は、FINMAが提供する予測可能性の高い規制環境にあります。スイスでは暗号資産やブロックチェーン技術に特化した全く新しい単一の法律を制定するのではなく、既存の金融市場法や民法を技術の進展に合わせて段階的かつ部分的に改正する手法がとられています。FINMAは「同一のリスクには同一のルールを適用する」という原則に基づき、基盤となる技術が何であれ、提供される金融サービスの経済的な実態に応じた規制を行っています。
テクノロジー中立的なアプローチにより、スイスは投資家保護や金融システムの安定性を損なうことなく、フィンテック分野の技術革新を支援しています。スイスでビジネスを行う企業は、事業モデルが既存の規制枠組みの中でどのように位置付けられるかを事前にFINMAに照会することが可能です。FINMAは各企業の事業形態やトークンの機能を個別に審査し、どの法律が適用されるかについての見解を示します。このような規制当局とのオープンな対話が可能な点は、スイスのフィンテックエコシステムの強みの一つです。
スイスのFINMAによるトークンの分類と法的枠組み

ブロックチェーン技術を用いた資金調達や暗号資産の発行を行う際、最も重要なステップとなるのがトークンの法的な分類です。FINMAはトークンの技術的な仕様ではなく、その経済的な機能と目的に着目した独自の分類基準を設けています。この分類は主に支払トークン、ユーティリティ・トークン、そして資産トークンの三つに分けられ、それぞれに適用されるスイスの規制要件が根本的に異なります。
支払トークンのマネーロンダリング規制
支払トークンは、現在または将来において商品やサービスの決済手段として使用されること、あるいは資金や価値の移転手段として機能することを目的としたトークンです。一般的に流通しているビットコインやイーサリアムなどの暗号資産がこれに該当します。支払トークンの法的な最大の特徴は、発行者に対する債権や持分などの請求権を一切伴わない点にあります。FINMAのガイドラインによれば、支払トークンはその経済的機能において伝統的な有価証券とは類似しないため、証券法上の有価証券としては扱われません。
有価証券としての規制は免れる一方で、支払トークンの発行やこれを取り扱う取引所の運営などを行う事業者は、スイスのマネーロンダリング防止法の厳格な適用対象となります。事業者は金融仲介業者として扱われ、顧客の厳格な本人確認義務や資金の出所確認義務を負います。さらに、法定の自主規制機関(SRO)へ加盟することが義務付けられます。なお、銀行ライセンス等を保有する金融機関の場合はFINMAの直接監督下に置かれます。
参考:FINMA(スイス金融市場監督局)|ICOガイドライン(2018年2月16日)
ユーティリティ・トークンと証券規制の適用除外
ユーティリティ・トークンとは、ブロックチェーン上のデジタルなインフラストラクチャを通じて、特定のアプリケーションやサービスへのアクセス権を提供することを目的とするトークンを指します。ユーティリティ・トークンが証券として扱われないためには、FINMAが定める厳格な要件を満たす必要があります。具体的には、トークンの唯一の目的がアプリケーションやサービスへのデジタルなアクセス権の付与であること、そしてトークン発行の時点でそのトークンを実際にプラットフォーム上で使用できる状態にあることが求められます。
もしトークンが経済的に見て一部でも投資目的の機能を有している場合、あるいは発行時点でアプリケーションが開発中であり、将来完成した際にアクセス権を付与するという単なる約束に過ぎない場合、FINMAはそのトークンを次項で述べる資産トークンと同様に有価証券として取り扱います。この厳格な解釈により、実質的な投資スキームであるにもかかわらず表面的にユーティリティ・トークンを装って規制を回避しようとする行為を防いでいます。
資産トークンの証券該当性と要件
資産トークンは、発行者に対する債務または持分などの財産的請求権を表象するトークンです。例えば、将来の企業収益の一部を分配する権利、事業から得られる資本フローへの参加権、または定期的な利息の支払いを受ける権利などがこれに含まれます。経済的な機能という観点から分析すると、資産トークンは株式、社債、またはデリバティブなどの伝統的な金融商品と実質的に同一であるとみなされます。
FINMAは資産トークンを有価証券として分類しており、その発行や流通にはスイス金融市場法に基づく厳格な証券取引規制が適用されます。また、金融サービス法(FIDLEG、SR 950.1)Art. 35以下に基づく目論見書の作成と一般への公開が義務付けられます。資産トークンを発行して資金調達を行うフィンテック企業は、伝統的な資本市場において株式や社債を発行する企業と同等の法的責任と情報開示義務を負うことになります。
スイスと日本のトークン規制における重要な違い
欧州圏でブロックチェーンビジネスを展開する上で、スイスと日本の法令上の違いを正確に把握することは重要です。日本とスイスでは、暗号資産に対する規制のアプローチに構造的な違いが存在します。
| 規制の観点 | スイスの法的枠組み(FINMAのガイドラインに基づく) | 日本の法的枠組み(資金決済法・金融商品取引法に基づく) |
| アプローチの基本 | 既存の法令を経済的機能に当てはめる「原則ベース」の規制。技術中立性を重視する。 | 暗号資産や電子記録移転権利など、技術的形態に基づく詳細な定義を法律で新設する「ルールベース」の規制。 |
| 支払トークン | 有価証券には該当せず、マネーロンダリング防止法のみが適用される。 | 資金決済法上の「暗号資産」に該当し、暗号資産交換業の登録が必須となる。 |
| 資産トークン | 経済的実態に基づき伝統的な有価証券と同様に扱われ、スイス債務法や証券取引規制が適用される。 | 金融商品取引法上の「電子記録移転権利」として定義され、第一項有価証券と同等の非常に厳格な規制に服する。 |
| ユーティリティ・トークン | 発行時に機能が実装されており、唯一の目的がアクセス権であれば証券規制の対象外となる。 | 不特定の者に対して代価の弁済に使用できる場合は資金決済法の「暗号資産」に該当する可能性が高い。 |
| ハイブリッド・トークン | 複数の機能を持つ場合、FINMAは各機能の比重を総合的に勘案し、該当する複数の規制を累積的に適用する。 | 暗号資産要件に該当すれば資金決済法が、有価証券(電子記録移転権利)要件に該当すれば金融商品取引法がそれぞれ適用される。複数の要件に同時に該当する場合は各法が累積的に適用される。 |
日本の資金決済法では、代価の弁済に使用でき、かつ不特定の者を相手方に売買できる財産的価値を「暗号資産」として法律上明確に定義しています。そのため、日本で支払トークンや一部のユーティリティ・トークンを取り扱う場合は、暗号資産交換業のライセンス登録が必要です。これに対してスイスでは、支払トークンの発行自体には特殊な業法上のライセンスは必要なく、自主規制機関への加盟を通じたマネーロンダリング対策を講じることでビジネスを開始できます。
また、日本の金融商品取引法では、ブロックチェーン技術を用いて移転することができる有価証券表示権利を「電子記録移転権利」と明確に規定し、厳しい開示規制や業者規制を課しています。スイスでも資産トークンは有価証券として扱われますが、後述するDLT法(分散型台帳技術に関する法律)によって既存の民事法が整備されており、伝統的な金融システムとブロックチェーンをより円滑に統合できる環境が整っています。
スイス銀行法に基づくフィンテック・ライセンスとサンドボックス制度

スイスでフィンテックビジネスを立ち上げる際、事業計画の障壁となるのが公衆預金の受け入れに関する規制です。スイス銀行法では、多数の顧客から資金を預かる行為は原則として銀行ライセンスを必要とします。しかし、FINMAとスイス政府は革新的なビジネスモデルを育成するため、規制の例外となるサンドボックス制度とフィンテック・ライセンスを導入しました。これにより、スイスは柔軟な事業環境を整備しています。
サンドボックス制度を活用した公衆預金の受け入れ
イノベーションを促進するために設けられたサンドボックス制度では、一定の条件を満たす事業者に限り、銀行ライセンスを取得することなく最大100万スイスフランまでの公衆預金を受け入れることが認められています。この制度は、立ち上げ直後のブロックチェーンプロジェクトやフィンテック企業が、多額のコンプライアンス費用をかけることなく実際の市場でサービスをテストするうえで有効です。
2019年4月の法改正によりサンドボックス制度はさらに拡充され、受け入れた最大100万スイスフランまでの資金を投資することが法的に可能となりました。(ただし、預かった資金を第三者に貸し出すことで利益を得る「金利差益ビジネス」は禁じられています。)また、サンドボックス制度を利用して顧客から資金を預かる場合、事業者は当該ビジネスがFINMAの直接的な監督下にないこと、およびスイスの預金者保護制度の対象外であることを、顧客に対して事前に明確に告知する義務を負います。
参考:FINMA(スイス金融市場監督局)|フィンテック・ライセンス導入プレスリリース(2019年3月15日)
フィンテック・ライセンスによるビジネス拡大
事業が成長し、サンドボックス制度の上限である100万スイスフランを超える規模の公衆預金を扱う必要が生じた場合、スイスではフィンテック・ライセンスという新たなライセンス区分を取得する道が開かれています。2019年に創設されたこのライセンスを取得した企業は、最大1億スイスフランまでの公衆預金を受け入れることが可能となります。
フィンテック・ライセンスが伝統的な銀行ライセンスと大きく異なる点は、受け入れた預金の運用に関する制限と、緩和された資本要件にあります。フィンテック・ライセンスを保有する企業は、顧客から預かった資金を常に流動性の高い資産として保持しなければなりません。預金を用いて自社で投資を行うことや、顧客の預金に対して利息を支払うことは法律で禁止されています。
その代わり、厳格なバーゼル規制に基づく自己資本比率規制や流動性要件の適用が免除されます。もちろん、経営リスクをカバーするための最低資本金の維持は求められますが、完全な銀行に比べると財務的な負担は大幅に軽減されます。さらに、FINMAが定める監査基準においても、大手銀行と比べてリスク分析や監査戦略の面で要件が緩和されています。これにより、暗号資産のウォレット業者、決済サービスプロバイダー、あるいは証券化されたトークンのカストディ業務を行う企業は、過剰な資本規制に縛られることなく事業を拡大できます。
日本の法律において、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)や銀行法により、無認可での預金受け入れは金額の多寡にかかわらず禁じられています。日本のスタートアップが少額でも顧客から資金を預かり保有するには、銀行業免許や資金移動業などの登録が必須であり、これが高い参入障壁となっています。金額の上限を設けて無認可での預金受け入れを許容する一般的なサンドボックス制度や、資本要件を大幅に引き下げた中間的なライセンス区分は、現在の日本の法体系には存在しません。この点も、スイスが欧州圏でのフィンテック拠点として選ばれる理由の一つです。
スイスのDLT法と台帳記帳型有価証券の要件
スイスはブロックチェーン技術に基づくデジタル資産に完全な法的効力と確実性を与えるため、分散型台帳技術に関する法律(通称DLT法)を施行しました。DLT法は単一の新しい法律ではなく、スイス債務法や国際私法など10に及ぶ既存の連邦法を一括して改正する包括的な法案です。この改正により、スイスはトークン化された証券の発行、移転、および保管に関して、世界でも有数の強固な法的基盤を備えた国の一つとなりました。
2021年2月に施行されたスイス債務法の改正により、第973d条に「台帳記帳型有価証券」という新たな有価証券のカテゴリーが創設されました。従来の法律では、有価証券の権利を譲渡するためには書面による署名が必要不可欠でした。しかしこの法改正により、ブロックチェーンのような分散型電子台帳上での登録とデジタルトークンの移転が、法的に有効な権利の移転として完全に認められることになりました。
スイスの法人において株式や社債を台帳記帳型有価証券としてトークン化して発行するためには、まず株主総会による定款変更の決議が必要です。そして、会社の定款において、有価証券を台帳記帳型有価証券として発行できる旨を明記しなければなりません。さらに、使用する分散型台帳が法的に有効な証券台帳として認められるためには、法律が定める以下の四つの厳格な要件をすべて満たす必要があります。
第一に、処分権限の要件です。トークンの技術的な支配権と処分権限は、発行会社ではなく投資家(株主や債権者)自身が持たなければなりません。発行者が投資家の同意なく一方的にトークンを移動させたり、凍結したりできない仕組みが求められます。
第二に、完全性の要件です。使用される電子台帳は、分散型コンセンサスアルゴリズムなどの高度な技術的および組織的措置によって、第三者による不正な改ざんや記録の改変から完全に保護されていなければなりません。
第三に、透明性の要件です。トークン化された権利の内容、台帳の機能、および当事者間の合意事項が、台帳または関連するデータに記録されていなければなりません。
第四に、検証可能性の要件です。投資家は、自身が保有するトークンに関連する台帳の記録を独立して閲覧でき、仲介者を介すことなく台帳のデータと完全性を自ら検証できるシステム構造になっていなければなりません。
これら四つの法定要件を満たすことで初めて、デジタルトークンの移転は法的権利の移転として有効に認められ、投資家は伝統的な有価証券と同等の法的保護を受けることができます。この制度により、スイスでは非公開企業の株式や不動産などの現物資産をトークン化し、グローバルな投資家に提供するための法的基盤が整っています。
参考:fedlex(スイス連邦政府法令データベース)|DLT法 連邦参事会メッセージ(BBl 2020 233)
スイスのFINMAによる法執行措置と判例の解説

スイスはフィンテックやブロックチェーンのイノベーションに対して寛容な事業環境を提供しています。ただし、法治国家としての規制遵守が前提です。スイスの規制当局は、革新的な技術を隠れ蓑にして既存の規制を迂回しようとする行為や投資家保護を脅かすビジネスモデルに対し、強力な法執行措置を講じています。スイスでビジネスを展開する企業は、FINMAが法令違反に対して事業の強制清算や不当利得の没収を命じる権限を持つことを認識しておく必要があります。ここでは、スイスの裁判所で争われた暗号資産関連の重要な判例を詳しく解説します。
envion AGに対する破産および不当利得返還請求事件
ブロックチェーンプロジェクトにおける資金調達(ICO)において、FINMAがいかに厳格に銀行法を適用するかを示した代表的な事件が、envion AGの事例です。
envion AGは新規暗号資産公開を実施し、世界中の投資家から法定通貨である米ドルに加え、暗号資産であるイーサリアムおよびビットコインを受け取りました。投資家にはその対価として「EVNトークン」が発行されました。この手法により、同社は少なくとも3万7000人の投資家から総額9000万スイスフラン以上の資金を調達しました。
しかしFINMAが実施した徹底的な調査により、同社が発行したEVNトークンは、30年後に投資家に対して資金の返済を請求する権利を付与するものであり、その経済的実態は明らかに債券に類似していることが判明しました。スイス銀行法の下では、将来の返済義務を伴う資金を多数の公衆から商業規模で受け入れる行為は「公衆預金の受け入れ」に該当し、例外なく銀行ライセンスの取得が義務付けられています。
envion AGは銀行ライセンスを取得していなかっただけでなく、資金調達の際にスイス債務法で義務付けられている法定要件を満たした目論見書を作成・公開しておらず、さらには法律で設置が求められている内部監査部門すら備えていませんでした。これらの事実をもって、FINMAは同社のビジネスを重大な監督法違反であると認定しました。
その結果、FINMAは2019年3月にenvion AG案件のエンフォースメント手続を完了し、同社が銀行法上の許可なく公衆預金を受け入れたと認定しました。さらにこの事件では、同社が抱えていた組織的欠陥を理由に、管轄であるツーク州の裁判所から破産宣告が下され、最終的に事業は強制清算されるに至りました。
参考:FINMA(スイス金融市場監督局)|envion AG破産処分プレスリリース(2019年3月27日)
A. AGの無許可証券ディーラー業務に関する連邦行政裁判所判決
暗号資産ビジネスにおいて、企業そのものだけでなく経営陣個人の法的責任まで追及された事例として、スイス連邦行政裁判所が2024年1月16日に下した判決(事件番号:B-4185/2020)が挙げられます。この事件は、無許可でのトークン販売が証券ディーラー業務に該当するかどうかが争点となりました。裁判の当事者は、スイス法人のA. AGおよび同社の取締役会会長であるB、取締役であるC、そしてスイス金融市場監督局(FINMA)です。
事件の背景として、A. AGはオーストリアの法人が発行したトークンをスイス内外の多数の投資家に向けて販売していました。このオーストリア法人は、将来的に暗号資産領域に特化した銀行を設立する計画を掲げており、投資家が購入したトークンは、その銀行が設立された暁に銀行内部の独自暗号資産と交換されるという約定になっていました。
FINMAは2020年6月19日に発出した決定において、A. AGが行っていたこのトークン販売事業は、実質的に投資目的の有価証券を公衆に募集する行為であり、無許可での証券ディーラー業務に該当すると認定しました。FINMAはこの行為を監督法に対する重大な違反とみなし、A. AGに対して監督法に基づく事業の強制清算を命じました。さらに同社は債務超過に陥っていたため、即座に破産手続きが開始されることとなりました。
この事件で特筆すべき点は、FINMAが法人への制裁にとどまらず、取締役会会長であるBと取締役のCに対して、この違法な証券ディーラー業務に重大な寄与をしたと判断したことです。FINMAはペナルティの一環として、法人および当該業務に重大な寄与をした経営者個人の実名を同局の公式ウェブサイト上に公表する措置(FINMAG Art. 34に基づくネーミング・アンド・シェイミング)を命じました。
A. AGおよび取締役のB、Cは、販売したトークンはスイス証券取引法が定義する「有価証券」には該当しないため、自社の事業は合法であると主張して連邦行政裁判所に不服を申し立てました。しかし、連邦行政裁判所は2024年1月16日の判決においてFINMAの決定を全面的に支持し、販売されたトークンが将来の利益や権利を約束するものであり、経済的実態として有価証券に該当することを明確に認めました。この判決は、無許可でのトークン販売に対する強制清算に加え、経営陣個人への実名公表が合法であることを確認した先例として位置づけられます。
参考:BVGer(スイス連邦行政裁判所)|判例 B-4185/2020 事実関係サマリー(2024年1月16日判決)
まとめ
スイスはフィンテックやブロックチェーン技術を活用したWeb3ビジネスにおいて、先進的な法的インフラを提供する国の一つです。FINMAが採用する「原則ベース」かつ「テクノロジー中立的」なアプローチにより、トークンはその名称や使用されている技術ではなく、実際の経済的機能に基づいて支払トークン、ユーティリティ・トークン、資産トークンのいずれかに分類されます。これにより、事業者は提供するサービスがマネーロンダリング規制のみに服するのか、あるいは厳格な有価証券規制の対象となるのかを事前に把握できます。
さらにスイスの規制環境の魅力の一つは、銀行法に設けられた特例措置にあります。公衆預金の受け入れに関して一律に厳しい制限を課す日本の法体系とは異なり、スイスではサンドボックス制度を活用することで、一定の制限の下で最大100万スイスフランまでの資金を無認可で受け入れ、投資することが可能です。(ただし金利差益ビジネスは禁止されています)。また、事業規模の拡大に合わせて最大1億スイスフランまで預金を取り扱うことができるフィンテック・ライセンスを取得すれば、従来の銀行に課せられるような重い自己資本規制から解放されつつ、合法的にビジネスを展開できます。
一方で、envion AG事件やBVGer B-4185/2020判決が示しているように、スイスの規制当局や裁判所は違法なビジネスモデルや規制の抜け穴を狙う行為に対して厳格な姿勢で臨んでいます。実態が預金の受け入れや証券の募集であるにもかかわらず無認可で事業を行った場合、事業の強制清算や不当利得の没収にとどまらず、経営者個人の責任が法的に追及されるリスクが存在します。したがって、スイスでのビジネス立ち上げにおいては、初期段階から現地の法規制を理解し、適切なコンプライアンス体制を構築することが求められます。
こうした高度な専門性が求められる欧州圏でのビジネス展開において、モノリス法律事務所は強力な法務サポートを提供しています。当事務所は、スイスのジュネーブに拠点を構えるブティック型法律事務所Araucariaと強固な提携関係を構築しています。Araucariaは、知的財産権の保護、nDSG(スイス連邦データ保護法)およびGDPRへの準拠を含むデータ保護コンプライアンス、そしてテクノロジー企業の革新的なビジネス戦略を法的側面から支える豊富な実績を有しています。モノリス法律事務所のIT・暗号資産法務に関する深い知見と、Araucariaが持つスイス現地の法令手続きに関する専門性を融合させることで、複雑なトークン分類の法的審査、フィンテック・ライセンスの申請手続き、分散型台帳技術を用いた証券化ストラクチャーの構築など、スイス市場への進出を検討する企業に対して、一貫した総合的なサポートを提供いたします。
河瀬 季
Toki Kawase
IT企業経営の経験を持つエンジニア出身の弁護士。東大院修了後、モノリス法律事務所を開設。上場企業からスタートアップまで顧問弁護士やCLOとして経営を支援する。特にスイス法務に精通し、専門チームを率いて現地法人設立から労務、知財戦略分野で日本企業のスイス進出を多角的にサポートしている。
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